ステファン・カリーって誰?:
ステファン・カリーは彼世代、いや、恐らく全世代の最優秀攻撃型選手の代表格と言っても過言ではないだろう。スプラッシュ・ブラザーズ(クレイ・トンプソンと共に)の片割れとして、3ポインターの記録に始まり、NBA優勝を3回飾り、2つのMVPを獲得、さらには3ポイント成功率リーダーには6回も輝いているのだ。 彼の達成した偉業リストに終わりはない。
ボディータイプ:
カリーはポイントガードとしては背が低い方ではないが、NBAの基準からすると小柄である。しかしスポーツに向いた体型をした選手である。本質的にポイントガードに向いた体型と言えるだろう。つまりは、スクリーン戦を勝ち抜き、接触しつつもショットを打ち、その際のバランスを保つことができる程度には堅固な身体なのだ。大柄選手に圧倒される可能性がありながらも、細身のお陰で、迅速かつ的確な足捌きで動くことが出来、更にはフロア上でも空気中でも絶妙にバランスを保つ事が出来るのである。
シュート構造(メカニックス):
ステファン・カリーのシューティングフォームとボールリリースは完璧だ。彼の誰よりも抜きん出た才能、それは、シュートの距離・コンタクト・種類や地点に合わせ、そのフォームを自在に変化させる能力だ。
まずはオフドリブル時の手のポジションにフォーカスしてみよう。大抵はシュートする手を若干ボールのサイドに置き、親指と人差し指がV字になっている。実は、この手のポジションと形が、シュートを打ちながらボールを離す前に手を回転させる鍵になっている。カリーはシュートの際、腕が約3/4伸びた辺りでボールを放つ。ボールは彼の頭上で、頭、リードヒップ、踏み出した足、と完璧に一直線を描く。だから彼のショットは恐ろしく的確なのだ。カリーがボールを手にし、ゴール正面に入った瞬間、シュートする手が頭に触れるくらい近くに来る。これはカリーがシュート体勢に入った事を示す。その様はまるでダーツプレーヤーが的のど真ん中を狙っている時と相似する。足と肩はほぼ完璧な同線上に位置し、ショットの為に身体中の力を集めながら、膝は気持ち内側に曲げる。ボールを放つまでに、頭のてっぺんから足のつま先まで見事な一直線を描くのが彼の常である。結果、彼のボールリリースは、完全かつ効果的なエネルギーの流れを生み出す。ついでに言うと、カリーはほぼいつも爪先移動をしているのだ(とてつもなく難易度が高い!)。これが彼の強さの本当の秘訣なのかも知れない。カリーはシュート前、大抵、『力を集約するために一度ボールを下に下げる』(=ディップする)のだが、爪先立ちは、このディップを素早く簡単に行うのに一役買っている。また、爪先移動はジャンプとボール統制の性能を高めるので、そうしながら、カリーの腕は既にシュート体勢(四角型)に入っているのだ。
キャッチ&シュート(ショット)の際のカリーのフォームもほぼ同様だが、僅かな違いが数点見受けられる。まず、巻きの動き(曲線状の移動。大抵は3ポイントライン付近でなされる。)をする場合、典型的なピボットを使ってシュートの為の体勢作りとボール統制をする。この時、やはり爪先立ちでシュート前に軽いホップをする事で、全身への均一なエネルギー循環を可能にしている。わずかではあるが、重要な違いがここにある。カリーは、ショットタイプに合わせて(ボールに込める全身の)エネルギー循環のさせ方を微調整する事が出来てしまうのだ。足の位置を微調整し、全身体へのスムーズなエネルギー循環が出来る体勢を整えつつも、膝から上は必ずゴール正面に向くようにしている。
※ エナジーフローをここではエネルギー循環と訳しています。イメージとしては、「つなぎ目ごとに微妙に歪んだレールを走る列車」と「均一に歪みなく接続された直線上に伸びるレールを走る列車」の違いを想像してみてください。どちらの列車が燃費効率よくかつ速く進めるか、議論の余地はないと思います。カリーの身体の使い方は、彼自身の生み出すエネルギーを、無駄なくスムーズな線上で移動させる事が出来る、「均一に歪みなく接続された直線上に伸びるレール列車」のようなものなのです。
打ち方:
なぜショットを外さない?ドリブルから、キャッチ&シュート、自らのショットのフォロー、スクリーンからのショット、等々。バードやナッシュ(同シリーズ別回にて分析)同様、カリーも己ひとりでオフェンスを成立させるプレーヤーである。特筆すべきは、ディフェンスを崩壊させ、疲れ知らずの攻撃で、必ず詰まった空間をこじ開けてしまう能力だろう。文字通り、「止まる」事を知らず、常に3つの脅威(シュート、パス、ドリブル)、どの動きにも入れる体勢をキープし続ける。それだけではない。カリーは相手のディフェンスの弱点を突くのではない。彼自身がディフェンスの弱点となってしまう動きをするのだ。彼の卓逸したボール捌きと(ゲームの流れを見通す)先見の明は、あたかも彼がシュートの為のベストスポットを常に創造している様に見えるくらいだ。ハーフコートを超えた時点で、相手チームは時として3人対1でカリーに臨む。それでもカリーは止まらない。的確な足捌きで相手を躱し、殆どハーフコートラインから3ポイントショットを決めてしまうのだ。敵は身体性を駆使した肉体勝負のディフェンスを仕掛けることもできるが、言うは易し行うは難し。カリーのバランスを崩すほどのコンタクトを仕掛けるのは容易いことではないのだ。
最後に、カリーのショットは、的確な足捌き及び完璧な身体コントロールから形成される、高効率の体内エネルギー循環を拠り所とする。クレイ・トンプソンが完璧なフォームを習得しているのに対し、カリーは体内エネルギー循環技を体得し、さらには敵方のエネルギーを吸い上げるプレーヤーなのだ。彼はもう、単純にシュートの神だと言える。
※ 翻訳者の感想:ステファン・カリー、神っていうか、忍者に思えてきました。
「シューター分析 シリーズ第5回(最終回): ステファン・カリー」への1件のフィードバック